「聴く力」が武器の最若手デザイナー。信頼構築術の全貌に迫る

Interviewee

新庄 隼仁

2021.6.23

デザイナーがキャリアを考えるとき、その選択肢はさまざまあります。個人で仕事を受注するフリーランス、企業として受注を受けチームで働く制作会社、そして自社のコンテンツやプロダクトのデザインに取り組む事業会社。どの働き方を選ぶかによって、求められるスキルや仕事の内容が大きく変わってくるからこそ、「自分は何を目指すのか」とキャリアに悩むデザイナーは多いのではないでしょうか。

今回は、そんなデザイナーの働き方に迫るべく、長年勤めた制作会社を離れて2020年5月にカオナビに転職し、事業会社のデザイナーとして新たな道を歩み始めたマーケティング本部デザイングループの新庄隼仁を取材。

新庄は、なぜこのキャリアを選択するに至ったのか。彼がカオナビで描く、理想のデザイナー像とは?じっくり話を伺いました。

制作会社で感じていた「納品したら終わり」のもどかしさ

まずは、カオナビに入る以前に携わられていたお仕事と、転職しようと思ったきっかけについて教えてください。

新庄

前職はデザイン制作会社に居まして、外部のクライアントから受注を受け、デザインとコーディングをセットで担当してWebページやWebサイトを作る、という制作業務をメインに行っていました。

転職しようと思ったきっかけは「事業会社で、PDCAを回しながらデザインの仕事をしてみたい」と思うようになったこと。制作会社でのクライアントワークは、制作する上で必要な情報をインプットしてデザインしても、納品すると「それで終わり」になってしまうことが多くて……。自分としては「つくったものを実際に使っていただいてから、フィードバックをもらい改善する」という、長期的に伴走するようなイメージの仕事もしてみたいという想いがあり、理念やビジョンに共感できる事業会社への転職を考え始めました。

マーケティング本部デザイングループ
デザイナー
新庄 隼仁
新卒で総合広告制作会社にデザイナーとして入社。約7年間、様々な業界のコーポレートサイト、キャンペーンサイトなどを制作する他、オウンドメディアの立ち上げやブランディング支援などの業務にも広く携わる。2020年5月にカオナビに入社。

事業会社の中でも、カオナビを選ぶ決め手となったものは何だったのでしょうか?

新庄

大きく分けて2つあります。1つは、面接の際に「これから全社的なブランドガイドラインを整えていく」というお話を聞き、ちょうど良いタイミングだと感じたことです。「最初から出来上がっているものを改修していくより、新しいものをつくっていく方が面白そうだし、やれることも多いだろう」と思い、興味を惹かれました。

もう1つは、HR Techやタレントマネジメントに関するサービスを提供している会社なので、「人を大切にする会社なのかな」という印象があったこと。働き方に関する考え方も大きな決め手になりました。

カオナビに入社されてからは、どのようなお仕事に携わられているのでしょうか?

新庄

マーケティング本部デザイングループという部署で、Webサイトやマーケティング活動に必要になるさまざまな制作物のデザインを行っています。

メインは、カオナビの製品に関する情報がまとめられているサービスサイトの制作と改修。それ以外にも、イベントに出展する際のチラシやブースのデザイン、セミナーで使用する資料のデザインなど、Web以外にも様々な媒体のデザイン制作も担っています。

2021年6月現在
新庄

また、デザイン組織を内部に持たない本部所もあるため、カスタマーサクセス(以下、CS)チームが担当している導入企業さま向けのサポートサイトや、セールスチームが使用しているお客様向けの資料であったり、多岐にわたるデザインに関するプロジェクトに、部署を超えて関わることがあります。

特に新庄さんはいわゆる部署を飛び越えた“越境”業務を多く担当されていると伺っています。具体的に、どのようなプロジェクトに参加されたのでしょうか?

新庄

まず、入社して割とすぐの頃に関わったのが、CSチームから依頼を受けた「ユーザー会のアイコン制作」プロジェクトです。

ユーザー会とは、カオナビをご導入いただいている企業様を対象に、カオナビの活用促進やユーザー企業様同士の情報交換ができるコミュニティを形成しており、その中で開催されているセミナーのことです。目的や導入フェーズごとに「(カオナビを使い)ハジメル」「(機能を使い)コナセル」「(活用事例を)マナベル」「(知識と人脈を)ヒロゲル」という4種類のイベントで構成されています。

ユーザー会の広報につなげていくため、あらゆる資料やWebサイトに使用するためのデザインやロゴが必要だという話になり、プロジェクトが立ち上がりました。

そのプロジェクトを進める上で、意識してたことなどはありますか?

新庄

デザイナーとCSがそれぞれの目線で意見を出しながら「一緒につくっていく」プロセスを意識して進めていきました。

その過程で「それぞれのイベントの特徴を直感的に伝える」というプロジェクトの課題が明確になり、ディスカッションの中から「導入から活用までの流れを、植物が成長していく様子にたとえる」というアイデアが生まれました。

前職時代は「クライアントの要望を聞いた後は、ひとりでアイデアを考え、デザインまで落とし込む」という流れが一般的だったため、今回のプロジェクトでは自分ひとりでは思いつかなかったはずのアイデアを形にすることができ、共創のプロセスが非常にうまく機能したように思います。

また、そうやってみんなでつくったものの方が、メンバーにも愛着を持って使ってもらえるなと感じます。

デザイナーに求められる「聴く力」と「伝える力」

カオナビのデザイナーとして働く上で、どのようなスキルが重要だと思いますか?

新庄

まず、「聴く力」は、かなり重要だと思っています。各部門によって使用目的は違いますが、ベースにはカオナビというプロダクトを広げていくためにデザインの力を使いたいという想いがあって依頼が来ます。ただ、デザインを専門にされていない方って、デザイン的にどんなアウトプットが最適なのかわかっていなかったり、イメージはあってもうまく言語化できなかったりすることが多いと思うんですよね。そして、そのうまく言語化できないイメージを120点にしたアウトプットをデザイナーに期待している。

だからこそデザイナーとしては、「相手の要望を聞き出す能力」、さらに、言われたことをそのまま受け取るのではなく、その奥にある「そうしたい本当の理由や目的、意図」まで汲み取れるようなヒアリング能力が重要になってくると思います。ただ言われたものをつくるだけなら、あえて内製したり、対話しながら創り上げたりする必要もありませんからね。

そして、相手の要望を深いレベルでヒアリングした上で「じゃあ、こんなデザインでどうでしょう?」と最適な提案ができるかどうか。カオナビのバリューで言う「仮説思考」のスキルが求められると思います。

相手自身もはっきりわかっていないような要望を汲み取るには、非常に高いスキルが必要になってくる気がします。新庄さんはデザイナーとしての「仮説思考」を磨くために、どんなことに取り組んでいますか?

新庄

「“引き出し”をたくさん持つこと」を普段から意識しています。具体的には、他社のサイトをたくさん見たり、新しくリリースされたデザインを見てインプットしたりと常に情報感度高く、アンテナをはっている感じですね。

それらを「なんとなくかっこいいな」と思ってブックマークするだけではなく、「具体的に何がいいと思ったのか」あるいは「どこに改善の余地があると感じたのか」を言語化して、セットでインプットするようにしています。

引き出しがないと、相手のインサイトが理解できても、それを具体的に進めることができないし、つまりは仮説が生まれてこない。

“引き出し”を増やしていくことで、ヒアリング中に「この間見たアレみたいなイメージかな」と、相手の要望とアイデアが結びつく瞬間が増えていくように思います。

なるほど。膨大なインプットをしてから相手の要望に注意深く耳を傾けることで、「仮説思考」のセンスが磨かれていくのですね。

新庄

そうですね。ただ一方で、相手の要望はしっかり聴くのですが、「プロとして意見はしっかり伝える」ということも大事にしています。

やはり、デザインを本業としていない人からしたら何が良いデザインなのか判断がつかないことも多いと思うので、「デザインという観点では、こっちの方がいいと思います」と伝えるべきことは妥協せずに伝える。これは僕に限らず、カオナビのデザイングループとしても目標にしていることです。

そうした「聴く力」と「伝える力」の両方が、カオナビで働くデザイナーには特に求められるのではないかと思います。

そうしたデザイナーとしての意見が、ビジネスサイドのメンバーとぶつかることはないのでしょうか?

新庄

もちろんありますよ(笑)。たとえば、数字を追っているマーケターの視点では、サービスサイトのトップページの上部に大きくバナーを貼った方がCV(コンバージョン)が取れるけれど、それに対してデザイナーからは「UX的にどうなの?」「ブランドイメージを毀損しない?」といった話が出てきます。

でも、そうした顧客やユーザーのUX視点、定性的な意見は、デザイナーからしか出てこないものだと思うので、遠慮せずに伝えるようにしています。

お互い『カオナビ』というプロダクトをよくしていきたい、広めていきたいという部分は共通していて、それぞれの得意な考え方が違うだけだと思っているので、お互いにリスペクトを持ちながら、コミュニケーションを通じて「より良い方法はなにか?」をすり合わせていく感じですね。そういった意味で、建設的な議論は不可欠だと思っています。

デザインの「仕組み化」とは、誰にでもわかる言葉で説明すること

現在も、マーケティング本部での業務とは別に関わっている“越境”プロジェクトがあるんですよね?

新庄

はい。ブランドデザイン本部*1が主体となって進めているカオナビとしての新たなブランディングを築き上げるプロジェクトにも参画させてもらっています。まだお伝え出来ないことも多いのですが、カオナビの企業としてのブランドを確立させ、その認知を社内外に広げていくというプロジェクトに関わっています。

母体が大きくなってきたことで、部門最適化されているデザインを全体最適なものへの見直していくというカオナビの全部門を横断したプロジェクトですね。

*1:カオナビの思想を具現化し、各ステークホルダーにファンを作ることを目的として立ち上がった本部

かなり大規模なプロジェクトですが、プロジェクトを進める中で、どのような部分に苦労や難しさを感じますか?

新庄

セールスチームなら営業の資料、CSチームならサポートサイトなど、各部署ごとに持っているさまざまな制作物があるのですが、「どの部署のどの制作物においても同じ世界観やメッセージを伝えるために、柔軟に対応できるルールをつくること」に難しさを感じています。

これは僕の個人がカオナビで成し遂げたいことの一つでもある「デザイングループ全体の制作物のクオリティを底上げし、それを安定供給できるような状態をつくること」にもつながる内容で。カオナビでは「凄いモノをつくったり、凄い成果を挙げた人より、その凄さをみんなが再現できる“仕組み”をつくった人の方が偉い」という価値観があるので、属人的に高品質なものをつくれるだけではダメでなんです。

そのため、みんながクオリティの高いものをつくれるように、再現性のある制作の仕組みをつくること──今回のプロジェクトで言えば、ブランドの世界観を統一し、クオリティを担保するためのデザインガイドラインづくりに取り組んでいます。

デザインのようなクリエイティビティが必要な業務は、非常に属人性の高い作業だと思いますが、わかりやすいガイドラインをつくる上で、どのようなことに気をつけていますか?

新庄

ガイドラインには、色や写真を選ぶ上での判断基準などを盛り込むのですが、その際に「なぜこの写真はOK/NGなのか」を、明文化して説明するよう気をつけています。

デザイナーは、デザインに対する「イケてる/ダサい」がある程度感覚的に判断できてしまうあまり、「具体的に何がイケてる/ダサい」のかをわざわざ言語化する機会は実は少ないと感じています。

しかし、事業会社でデザイナーをやる以上、そのスタンスではデザインと事業に壁を作るだけだと思います。デザイナーではない人にも判断基準をわかってもらうためには、やはり言葉でも「いい/悪いデザインとは何か」を定義する必要がある。そのため、OKとNGの事例を載せるだけではなく、それを誰にでもわかる表現で説明するよう心がけています。

プロダクトを軸に、全体を俯瞰しながらデザインしていくことの面白さ

どのような部分に、カオナビでデザイナーをやることの面白さを感じますか?

新庄

やはり自分がつくったものに対する社内外からの反応を直接得ながら、継続的に関わっていけるという部分は大きいですね。

また、1つの制作物をつくったら終わりではなくて、「プロダクト全体を俯瞰して考えていく」という部分にも面白さを感じます。

制作会社に居たときは案件ごとに担当が割り振られるため、自分の担当していない案件については「そんなことやっているんだ」くらいの認識しかありませんでしたが、カオナビでは1つのプロダクトを軸にしてメンバー全員が動いているので、「こっちの部署でこうするなら、あっちの部署のこれも変えよう」と、いろんなことがつながっていく感覚があり、全体感を持ってデザインしていくことに面白みを感じます。

最後に「こんなデザイナーの人にカオナビに入ってきてほしい」というものがありましたら、教えてください。

新庄

冒頭お伝えした「聴く力」のあるデザイナーは活躍できると思います。

さまざまな施策を行って、その結果を分析し、「ここをこう変えたらいいんじゃないか」と改善方針まではすごくよく考えられていても、「最終的にどんなデザイン/アウトプットが目的を実現する上で最適か」という部分と紐付けて落とし込むことが大切だと思います。

メンバーの要望を汲み取り、最適なデザインやUIに落とし込んでいくのがデザイナーの仕事ですから、そうした「聴く力」によって導き出したニーズと、自分の中に蓄積された解決策としてのアウトプットを「結びつける力」を持っている方は活躍できる環境だと思います。

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