カオナビのプロダクト開発組織はこれまでに職能別→機能別→ハイブリッド型と、時代や組織課題に応じて柔軟に形を変えてきました。2025年7月からは再び職能別組織へ移行し、また新たな体制が動き出しています。
今回は、TalentHRカイゼン部に所属する5人のメンバーに、組織体制の変化に伴う実感と手応え、そしてこれから描いていく未来の姿について聞きました。
※取材当時は5人とも「旧:カスタマーエクスペリエンス部、現:TalentHRカイゼン部」所属です。
異なる経歴と強みをもつメンバーが集う、TalentHRカイゼン部の現在
まずは皆さんが現在担っている業務について教えてください。
2019年3月に入社し、既存システムの改善案件を中心に担当してきました。マネージャーとしてチーム運営にも携わりつつ、現在はシンカイゼンのチームリーダーとして、チームの意思決定や業務改善などの役割を担い、Unit1ではでPO(プロダクトオーナー)としてカイゼン案件のディレクション業務を行なっています。
2025年7月に入社し、バックエンドエンジニアとしてシンカイゼンの3つのユニットに横断的に関わり、バックエンドエンジニアの育成を行っています。また、技術文化の醸成やチーム全体での会議のファシリテーションなど、役割を越えたサポートも行っています。
2022年にバックエンドエンジニアとして入社し、分析機能の開発などを担当してきました。今年7月からシンカイゼンに異動し、ディレクター職への挑戦を進めています。現在は上野さんとともにディレクション業務を行っています。
2022年4月に入社し、これまでは分析機能チームでディレクターを務めてきました。現在は既存案件の改善ディレクションを担当しています。並行して、今回の組織変更に伴うディレクター業務のフロー整理など、体制面の整備も進めています。
2023年1月に入社し、フロントエンドエンジニアとしてアクセシビリティ対応などをはじめとする横断的な機能改善活動を行ってきました。現在も既存機能の改良や機能横断的な改善活動を通して、フロントエンジニアの育成を行なっています。
プロダクトデベロップメント本部
TalentHRカイゼン部 エンジニアリンググループ
木下博貴
新卒から10年間SESの業務委託としてエンジニア・マネジメントを経験。2023年1月よりフロントエンドエンジニアとしてカオナビに入社し、シンカイゼンUnit1にて既存システムの改善や組織横断的なフロントエンド開発に従事。日々の活動で得た知識や体験を社内外に発信する取り組みも行っている。
機能別から職能別へ、より良い顧客体験を目指すための組織再編
現在、カオナビでは組織体制の改革が進行中と伺いました。その背景について教えてください。
私たちの所属するTalentHRカイゼン部は、プロダクトデベロップメント本部の下にある6部署のうちの1つです。2025年7月からは職能別の組織体制に移行し、10月にはさらに細分化されました。目的は、顧客体験の向上に焦点を当て、役割と責任をより明確にすることです。
また、この職能別組織化に伴い、ユニット(Unit)制を導入しました。各ユニットは6〜7名の小規模チームで、ディレクター・エンジニア・QC/QA・デザイナーの4職種のメンバーが含まれます。1つのバックログを共有し、それをもとに開発を進める体制を作っています。
職能別に変わる前はどのような体制だったのでしょうか?
以前は4職種が1つの組織内に混在しており、それをチームという形で区切っていました。そのため、管理者は複数職種を横断してマネジメントする必要がありました。この形には一体感がある一方で、チームごとに独自のやり方が生まれ、その型から外れた細かな案件が動かしにくいという課題も出てきていました。
そこで、職能別に再編することで、案件の優先順位を柔軟に調整し、スピーディーに対応できるようにしたんです。以前から議論されていた構想ではありましたが、人員配置などのタイミングが重なり、この7月に実現する運びとなりました。
プロダクトデベロップメント本部
TalentHRカイゼン部 プロダクトディレクターグループ
服部大輔
新卒で証券システムの運用保守を経験後、シングルサインオンをサービス提供している会社に転職し、開発から運用保守まで幅広く業務に従事する。2019年3月にカオナビに入社。シンカイゼンUnit1のディレクターとして既存システムの改善案件やチーム全体の業務改善に取り組んでいる。
TalentHRカイゼン部では「職能別組織のほうがいいのでは」という意見もあったそうですね。
そうですね。TalentHRカイゼン部は他部署より関わる範囲が広く、同じ機能や画面に複数のチームが関わるケースが多い部署です。そうした環境では、職能ごとに知見を深め、情報を共有する仕組みが欠かせません。そのため、職能別組織にしたほうが、優先順位の明確化や開発スピードの向上につながるという意見が出ていました。
体制変更を振り返って、もう少し早く取り組めた、あるいはもう少し後でもよかったのでは、と思うことはありますか?
今思えば、もう少し早く動いても良かったのかもしれません。私が入社した2019年当時は職能別組織でしたが、当時は人数が少なかったため、いわば“社内受発注型”のような関係になっていました。組織全体で1つのチームとして開発を進めるというよりも、企画側が立案し、エンジニアチームが受注して開発し、運用側がリリースする、という流れが生まれていたんです。
その構造を変えたいという発想から、全職種を混在させたチーム制へ移行しました。新しい価値を素早く出せるようになった一方で、今度は細かな案件が停滞するようになり、スピード面での課題が見えてきました。
今回の職能別への回帰は、その経験を踏まえた最適化だと感じています。初めは不安や混乱もありましたが、メンバー全員が「もっと良くしたい」という意識を共有していたこともあり、移行はスムーズに進みました。だからこそ、もっと早く取り組んでも良かったのではと感じています。
「カオナビ」では、頻繁に組織変更があるそうですね。
はい。当社は半年に一度くらいのペースで体制が変わることもあります。その柔軟さは弊社の大きな強みだと思います。もちろん、短期的には混乱もありますが、そのたびに学びがあり、次のフェーズに活かせるのが大きいですね。
実際、今回の職能別移行も突然の発表でしたが、メンバー全員が2〜3週間ほどで新体制に順応して動けるようになりました。適応力の高さは、チーム全体の自信にもつながっています。……とはいえ、もう少し余裕をもって準備したいという本音もありますが。
Slackを遡ると、最初に「ユニット制になります」と共有されたのは7月2日でした。7月1日から職能別組織になった直後には、もう次の仕組みが動き始めていたんですよね。スピード感は本当にすごいと思います。
そのスピード感に順応できる皆さんの姿勢から、組織としてのしなやかさが伝わってきますね。
自由度とスピード感が共存する、新体制の手応え
職能別の組織体制になって数か月が経ちました。率直に、現状をどのように感じていますか?
私が入社したのは2025年7月1日で、新体制のスタート日でもありました。入ってみると皆さんが「この体制が始まったばかりで、実はまだ何も決まってないんです」と話していて、まさにゼロからのスタートでした。ただ、その分だけ自由があって、これから自分たちで決めていけばいいのだと思えたのは良かったですね。
Unit1は若手とベテランのバランスが良く、若手にとってもチームを作る経験が得られる良い環境になっている気がします。ユニット制は当初はトップダウンで決められた体制だと思っていたのですが、実際には「現場で最適な形を決めてください」と任されていたことを後から知り、その自由度がチームの自発性を引き出していると感じました。新しいベンチャーが立ち上がるような熱量がありましたね。
自由度が高まったことで、スピード感にも変化はありましたか?
私たちは「何に価値があるか」を自ら定義するチームです。そのため、仮説を立てて試行しながら進めるスピード感があります。また、価値の有無によっては「これは今はやらなくていい」と判断する自由もあります。単に早く進めるだけでなく、価値の選択そのものを自分たちでコントロールできるという部分でも、自由度が高まっていると思いますね。
プロダクトデベロップメント本部
TalentHRカイゼン部 エンジニアリンググループ
大西亜登武
独学でプログラムを学び、SNS事業の起業を機にキャリアをスタートした後、SaaS事業会社とEC事業会社でエンジニアとマネジメントを経験。2025年7月株式会社カオナビに入社し、シンカイゼンUnit1のバックエンド開発に加え、チーム全体の業務改善に取り組んでいる
実際に新体制で動いていく中で感じている変化や良さを教えてください。
以前の機能別のチームにも良さはありましたが、職能別になってからは上司が同じ職能なので相談しやすく、スキルの伸ばし方を話し合えるのが大きなメリットです。私はちょうど7月からディレクター職への挑戦を始めましたので、ディレクター同士のつながりができたことで、より相談しやすい環境になりました。ディレクター職への挑戦と体制変更が重なったのは偶然でしたが、私にとって非常に良いタイミングの変化でした。
職能別になったことでチームを横断して会話をするのが当たり前になり、チーム間の壁が無くなりました。以前はチーム内にこもってしまう傾向もありましたが、今は目の前にある課題に対して、一番早く効果的に改善するにはどうすればいいかを考えて自然と動けるようになっています。ちょっとした相談でも、職能やチームの垣根を越えて気軽にアクションを起こしやすくなりましたね。
以前はディレクターが限られた人数で複数案件を抱え、進行管理が難しい状況でした。そのためディレクターの人数を増やし、一人ひとりの担当案件を減らしたことで、より丁寧な進行と品質の担保が可能になりました。さらにユニット単位で動くようになったことで、案件の把握もしやすくなり、同時進行できる案件数も増えています。
もともと案件数に対して人手が足りないという大きな課題があったんですよね。職能別組織への移行は、人手を増やしつつ、チームとしての機動力も高めていくための体制強化というイメージです。
プロダクトデベロップメント本部
TalentHRカイゼン部 プロダクトディレクターグループ
上野友希
新卒で入社した企業で動画広告配信サービスの営業を経験後、ディレクターとしてのキャリアを開始。2社目ではアパレル向けECサイトシステムのディレクターとして経験を積み、2022年4月にカオナビに入社。分析機能担当を経て、現在はシンカイゼンUnit2のディレクターとして、既存機能改善およびチーム業務改善に従事している。
お話を伺っていると、メリットの多い体制変更だったのだなと感じます。その一方で、体制変更を行う難しさやリスクもあったのではないでしょうか。
完成度の高いチームを一度分解する形になったため、短期的には開発スピードの低下や混乱はありました。ただ、「最終的にどういう状況を目指すのか」というTalentHRカイゼン部の方針を示してもらっていたおかげで、「今は耐える時期だ」と共通認識を持てたのが大きかったですね。今は混乱期を抜け、少しずつ新体制が軌道に乗ってきたと感じます。
自由度が高い分、まだ決まっていないことも多く、試行錯誤の連続という実感はあります。特に若手にとっては「何から手をつければいいのか」と戸惑うこともあるかもしれません。そこは今後、仕組みを整えていく余地があると感じています。
プロダクトデベロップメント本部
TalentHRカイゼン部 プロダクトディレクターグループ
奥津絵里子SIer企業で受託開発を経験後、自社SaaS企業で機能開発に従事。2022年にカオナビにバックエンドエンジニアとして入社、主に分析機能の開発を行ってきた。2025年7月からはシンカイゼンのUnit2でディレクター職にチャレンジしている。
「カオナビ」を“最も使いやすいHRサービス”にするために
今後のTalentHRカイゼン部、そしてシンカイゼンの理想像について教えてください。
私の実感として、今は「シンカイゼン」というチーム名だけが先行し、「何かを良くしてくれるチーム」といった漠然とした印象を持たれている気がします。もともと他チームが手を出しにくい改善案件を担っていることもあり、便利屋のように見られることもあります。だからこそ、今後は「シンカイゼンが取り組むべき価値ある行動とは何か」を明確に定義し、社内に共有していきたいです。
「ちょっと面倒だからお願い」といった依頼ではなく、我々の目的や優先すべき価値を正しく理解してもらうことで、無駄なやり取りを減らし、より本質的な改善に集中できるチームにしていきたいですね。
毎年、社内で最も活躍したチームを表彰する制度があり、それをシンカイゼンで受賞したいという目標を持っています。TalentHRカイゼン部は既存顧客の体験向上を担う部門ですから、お客様からの「使いやすくなった」「助かった」といった声をプロダクトに反映しやすい立場にあります。だからこそ、お客様の体験価値を高める活動を積み重ね、「ベストチーム」を目指したいと考えています。
シンカイゼン全体の役割を明確にした上で、次の段階としてユニットごとの特色を明文化したいですね。たとえば、私が所属するUnit1はベテランと若手が混在し、若手の育成を重視した“成長ユニット”になりつつあります。
一方で、Unit2はお客様への便益を最大化する本質的改善に注力し、Unit3は改善サイクルを素早く回す“スピード重視のユニット”として動いています。こうしたユニットの色を言語化し、役割を整理していくことで、最終的には木下さんの言う「ベストチーム」に近づけると考えています。
その「ユニットの色」はトップダウンで定義されたものというより、自然と生まれたものなのでしょうか?
そうですね。メンバー構成や動き方の違いから自然と生まれたものです。私のいるUnit1も、当初は本質的改善を担うチームになると思っていましたが、若手中心の構成になったことで育成案件が増え、結果的に成長型のユニットとして方向性が固まってきました。現場から自然に特色が生まれるのは、とても良い傾向だと思います。
まさに“現場発”のチームビルディングですね。では今後、TalentHRカイゼン部やシンカイゼンはどこを目指していくのでしょうか。
TalentHRカイゼン部、そしてシンカイゼンの最終的なゴールは「カオナビ」というプロダクト全体の使いやすさを高めることです。エンドユーザーである各企業の利用者に「HR系サービスといえば『カオナビ』が一番使いやすい」と感じていただくことが理想ですね。
高機能を追求するチームと、使いやすさを追求するシンカイゼンのようなチーム、その両輪が噛み合えばプロダクトとしての価値はさらに高まるはずです。信頼を得勝ち取れるUI/UXにこだわり、使いやすさや顧客体験の向上を目指し続けていきたいと思います。
シンカイゼンでは大規模な新機能を開発するよりも、既存ユーザーの体験改善を主軸にしています。その分、大きなリリースのインパクトは少ないものの、お客様に直接的な便益を届けられる機会は非常に多いです。
だからこそ、開発メンバー自身が「自分たちの取り組みがどう役立っているのか」を実感できるように、CS(カスタマーサクセス)など他部署との連携をより深めていきたいですね。活動の意義をチーム内外に定着させ、『何のために取り組むのか』を常に意識しながら上を目指していける組織でありたいです。