AI×SaaSの転換期に挑む。変化を恐れず挑戦するカオナビのプロダクトづくり

Interviewee

平松 達矢

2025.12.24

2025年、カオナビは5年後の再上場を見据えて株式の非公開化を決断し、10月21日には経営ビジョンを「タレントインテリジェンス(Talent intelligence™)」として刷新しました。データとAIの力で“個”の能力を最大化し、人的資本(Talent)に知性(intelligence)をもたらす──そんな思想を核に、AIを土台とした事業展開へと大きく舵を切っています。

同時に、プロダクトデベロップメント本部では職能別組織への移行が進んでいます。その中核を担うのが、今回お話を伺った執行役員CPO兼CBOの平松さんです。ビジョン刷新や組織体制変革の背景には何があるのか、カオナビはどこへ向かっていくのか。その思考を紐解きます。

ハイパフォーマンスを生むのは「仕事を楽しめているか」

平松さんはエンジニア、マーケティング、アライアンスなど多様な領域を経験されていますよね。カオナビ入社の決め手は?

平松

入社のきっかけは、以前同じ会社にいた福田さんからの誘いです。福田さんは現在、ヨジツティクス事業部の部長を務めておられます。当時は複数社を検討していましたが、福田さんからの「来てくれないと自分が困る」という率直な言葉に心を動かされたのが決め手になりました。

執行役員 CPO 兼 CBO
平松 達矢
モバイルサイト開発業務に従事した後、コロプラにてプラットフォームの運営及び開発を担当。その後、ゲーム会社の新規開発部門にてマーケティングとアライアンス業務を担当する。2017年に当社に入社し、プロダクト部門責任者を経て、2022年よりCPOに就任、2025年よりCBO(Chief Brand Officer)を兼任する。

入社当時から、現在の執行役員CPO兼CBOというキャリアは想像されていましたか?

平松

まったく想像していませんでした。普通に企画ディレクターとして入社しましたし、今のキャリアは想定外でした。ありがたいことに抜擢いただいた結果ここまで来た、という感覚です。

幅広いキャリアの中で、一貫して大切にしているものはありますか?

平松

チームマネジメントの観点で言えば、「メンバーが目の前の仕事を楽しめているか」を大切にしています。これまで私が携わってきた仕事は、成功する確証の無い新規領域へのチャレンジばかり。そういった挑戦的な環境でカギとなるのは人間のパワー、つまり「人が楽しく働き、高いパフォーマンスを発揮できているかどうか」です。

ビジョンや大きな目標ももちろん大切ですが、いち従業員にとっては遠く感じてしまう場面もあります。だからこそ、まず日々の仕事に楽しさを見出せる状態が大事だと考えています。

その楽しさはどこから生まれるのでしょう?

平松

まずは自発的なものが出発点だと思います。業務効率化が楽しい人もいれば、感謝されることに喜びを覚える人もいる。まずその個人の楽しさを尊重し、それが事業やビジョンとどのようにつながるのかを一緒に探していくイメージです。目標を押しつけるのではなく、個人が自分の言葉で消化できる状態が理想です。その状態が整えば、仕事は自然と楽しくなり、高いパフォーマンスにつながると考えています。

SaaSの常識を再定義する、AIが起点の新ビジョン「タレントインテリジェンス™」

今回掲げられた新ビジョン「タレントインテリジェンス™」にもその考え方が関係しているのでしょうか?

平松

そう思います。CEOが先日の半期総会で語った「せっかく働くなら本気で、燃えている状態のほうが楽しい」という言葉は、このビジョンにある価値観の象徴です。「変化を恐れず挑戦する組織であること」を全社で再認識するための旗印として掲げたのが、この新ビジョンです。

2025年10月、このタイミングでビジョンの刷新が発表されたのはなぜですか?

平松

構想は2年ほど前からありました。当時はAIが急速に普及し始めたタイミングで、私自身もAIを活用したプログラミングの検証をして可能性の広がりを感じていました。

SaaS企業としてもAI技術を活用したプロダクトの進化の必要性は考えていたものの、上場企業としては利益や売上を安定させる必要がありますので、大きな挑戦を実行するためには、短期の数字だけを見る経営では限界があります。そこで2年をかけて経営基盤を見直し、株式非公開化の準備を進め、挑戦しやすい組織体制に整えてきました。その歩みの集大成として、新ビジョンを発表しました。

平松さん自身はこの新ビジョンにどのような想いを込めているのでしょうか?

平松

検索が“ググる(=検索エンジンで検索する)”から「AIに聞く」へ移りつつあるように、SaaSの世界でもインターフェースがAIにシフトしていくと見ています。AIが入り口となり、SaaSはその裏側を支える構造になる。「AIが土台で、SaaSがパーツ」という意識にマインドチェンジしていくには、SaaS企業としては大きな意識改革が必要です。それを全社で共有するために、ビジョンとして言語化しました。

新ビジョンは、どのようにしてプロダクト開発や組織づくりに落とし込んでいくのでしょうか?

平松

「Why(なぜそうするのか)」は経営側が示しつつ、「How(どのように実現するのか)」は現場が自由に思考できるようにしています。ただ、AI領域は抽象度が高いので、「How」の一例として5年後のカオナビの画面イメージをコンセプトアートとして共有しています。具体的な未来予想図があると、必要なデータベースや試作のイメージがつきやすくなって自然と議論が生まれます。

▼新ビジョンについて詳しく知りたい方はこちら

AIと人が共創する、プロダクトづくりの新たな景色

「データとAIで“個”の力を最大限に引き出す」というメッセージも発信されていますが、なぜデータとAIが個の力を引き出すことに繋がるのでしょうか?

平松

例えばタレントインテリジェンスにおいては、従業員のモチベーションに関するデータが重要になります。評価の詳細や本人の意欲は、周囲からは見えにくいものです。ただ、マネージャー層から従業員にアプローチするためには、そのモチベーションがカギとなってきます。

そこをAIが適切に解析すれば、マネージャー層に「この人にはこうアプローチすべき」という示唆を返せるようになります。AIが仲介役になることで、個人のデータを直接見せずにマネジメントの精度を上げられるんです。そういった意味で「データとAIで“個”の力を最大限に引き出す」というメッセージを発信しています。

なるほど。AIには「誤回答が多い」というイメージもありますが、その信頼性についてはいかがですか?

平松

確かにBtoCのAIでは、情報源が雑多なので誤回答もしばしば起こります。カオナビがタレントマネジメントに特化したデータを扱っていることは前提にありますが、実態としてデータが完全にクリーンであるとは限りません。従業員データには、記述が不ぞろいなものや、入力されない情報も存在します。だからこそ、私たちは「雑なデータ」が入っていても上手く機能するようなやり方でAIを活用していきたいと考えています。

現在、カオナビではどのようにAIを活用しているのでしょうか?

平松

AIによるエンジニアリングを積極的に推進しており、利用率は7〜8割に達しています。活用方針の検証はテックリード中心の体制で、AI推進室やプラットフォームグループがカバレッジ拡大を進めています。

特に複数AIの組み合わせや人が介在すべきポイントの線引きは難易度が高く、プロダクトの規模が大きくなるほど検討が必要です。現在はその最適化を模索しているところです。

開発にAIを活用するメリット・デメリットはどういったところにあるのですか?

平松

メリットが大きいのはフロントエンドやデザイン領域です。とりあえずフロント部分だけでも形にして、コミュニケーション用のモックアップを作りたい、といったケースではAIを使うととてもスピーディーに作れます。その入り口部分をAIが担うことで、エンジニアの負荷も軽減されます。一方でバックエンドやインフラでは、安全性やルールとの折り合いが難しいというデメリットがあります。AIに任せる領域と、人が担保すべき領域との線引きが課題ですね。

社内ではAI推進室が最先端技術を追い、研究開発部が「カオナビのプロダクトに適合するか」を基準に検証を進めるという役割分担で、この2つの部署が率先してAIの利活用を広げています。

▼AI推進室について詳しく知りたい方はこちら

“個”の力を活かす組織づくりを目指した体制移行

現在、プロダクトデベロップメント本部は職能別組織へ移行しつつあると伺いました。その背景について教えてください。

平松

組織規模が拡大し、以前の事業部制では個々のスキル評価が難しくなったためです。専門性を理解したマネージャーが評価する体制が必要だと判断し、2025年4月頃から徐々に職能別組織への移行をスタートしました。現在は全体の半分ほどが移行済みですが、必要に応じて使い分けていく方針です。ただ、日頃の開発業務については、多様な職能が集まる小規模チーム(Unit)で行っています。

手応えはいかがですか?

平松

新任マネージャーの登用が進み、個別面談を重ねる中で、私自身はポジティブな変化を感じています。一方で本人たちは“筋肉痛”の状態で、全体的にはまだ過渡期にあると見ています。

多職能のメンバーが集まる小規模チームで、個性を活かすためには何が重要だと思われますか?

平松

開発プロセスで言えば、チーム全員が対等に意見を出せる状態を前提として、「投入コスト」と「得られる効果」の認識を揃えることが重要です。「大変だが効果が高い」などの価値判断を数字も交えて擦り合わせる必要があると思っています。そこが欠けると各々の個性が活かしづらいですし、最終的に「思っていたのと違ったな」という結果になりがちなのかなと。

開発の現場では、ユーザーや社内からの声が設計に反映されていると聞きました。どのように集約し、プロダクトへ組み込んでいるのでしょうか?

平松

営業やサポート部門からの声は複数ルートで日々収集しています。その中でも象徴的なのが、サポート部門発のSlackパブリックチャンネル「まだログ」です。

「まだログ」は、まだ実装されていない機能への気付きや、お客様からのちょっとした声を気軽に投稿できる場所です。開発メンバーも日常的に眺めて、「確かに」という投稿にはスタンプを付けています。反響の大きい投稿にはスタンプが集まり、自然と議論が始まるんです。社内で公式に使っているVoCツールとは別に“町の声”を拾える場として定着しており、とても良い文化だと感じています。

「まだログ」というネーミングもいいですね。

平松

そうなんです。多少言いにくいことでも、このチャンネルなら柔らかく共有しやすいんですよね。弊社はハイブリッドワークが前提の会社なので、「まだログ」以外にもSlack上でフラットにコミュニケーションできるような雰囲気づくりは意図的に行っています。

カオナビの組織文化とプロダクトの設計思想はリンクしている部分があるように感じました。

平松

意識的にそうしたわけではありませんが、結果として近い思想になっているのかもしれません。私たちはプロダクトを完全に作りきってから出すのではなく、あえて“半熟”の状態でリリースするアプローチを重視しています。たとえばダルマの目をお客様自身に書いてもらうように、最後の仕上げはお客様自身に担っていただくというイメージです。

人事領域は企業によって正解が異なります。だからこそ、プロダクトに各企業の性質や手法を載せられる余白を残し、ユーザーと対話しながら磨き込む文化が根付いていきました。“半熟”で出すと「ここは問題ない?」「もっと良くできるのでは?」と議論が生まれ、関係者全員が一緒に考えて作った、という実感を持てます。工数はかかりますが、そのプロセスこそが最終的な品質につながると考えています。

組織づくりも同様で、職能別組織への移行はまず一部の部署から試し、そこから段階的に広げていきました。

自発性を重視するカルチャーにも通じますね。

平松

採用においても、自発的に課題を見つけて改善策を考えられる人材を重視しています。そうしたメンバーが集まってきているからこそ、現在のカオナビのカルチャーが形作られてきたのだと思います。

挑戦が成長を生み、小さな成功が予想を超えた成長へと結びついていく

組織づくりに携わる中で、特に面白さを感じる瞬間はありますか?

平松

小さなチームがうまく回り始め、その成功が他チームへ伝播し、組織全体の成長につながる瞬間が一番楽しいですね。また、その過程で予想を超える成長が生まれることもあります。特にプロダクトデベロップメント本部ではそういった瞬間に出会うことが多いんですよね。

なぜプロダクトデベロップメント本部では予想を超える成長が生まれやすいのでしょうか?

平松

複数職能が連携するチームで開発を行っているため、個の集合によって相乗効果を生みやすいからだと思います。今後はこのナレッジを全社へ広げ、より多様なキャリアや抜擢が生まれる環境を整えたいですね。それが私たち経営陣の役割だと考えています。

今後のエンジニアの将来像について、思い描いているものはありますか?

平松

大きく2方向あると思っています。1つはAI技術を事業の文脈に落とし込み、プロダクトへ実装するタイプ。もう1つは、最先端のAI技術を研究として深めていくタイプ。前者のタイプはテックリード、後者のタイプはエキスパートといった形で職能を分けており、本来はそれぞれ専念できる環境が必要です。

しかし今はまだ、エキスパートが事業を手伝ったり、テックリードが研究を助けたりと、自発的に行ってくれているサポートに頼ってしまっている部分があります。経営に携わる身としては、エンジニアが自身の道を深めてキャリアを積み重ねられる環境を整えたいですね。

従業員にはどのような成長体験を期待していますか?

平松

今後は新しいチャレンジに手を挙げる機会が増えていきます。挑戦と日常業務の両立で大変な瞬間もあると思いますが、少し負荷がかかる状態は確実に成長を生みます。自分のパフォーマンス100%に対して、101%、102%の目標を掲げて、少しずつ背伸びを積み重ねていく。その積み重ねは会社の成長ともシンクロしていくでしょうし、そうなればより楽しく、情熱的に働けるようになると思うんです。最初は勇気が必要かもしれませんが、ぜひ踏み込んでもらいたいですね。

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