2025年6月、カオナビはAI活用を全社的に加速させるため、「AI推進室」を立ち上げました。メンバー全員が現場との兼務であるというこの組織が挑むのは、単なるツール導入ではありません。全社横断で戦略を描き、プロダクト価値へと昇華させていくためのAI活用促進・支援です。
HR SaaSの枠を超え、新ビジョン「Talent intelligence™(タレントインテリジェンス)」を実装する挑戦。その最前線では何が起きているのでしょうか。そして、AIによってプロダクト開発の前提が変わりゆく今、エンジニアに求められる役割とは。今回は、プロダクトデベロップメント本部研究開発部部長とAI推進室室長を兼務する藤田さんにお話を伺いました。
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全社横断的な把握とスピード感の課題から始動した、AI推進室の舞台裏
AI推進室が立ち上げられたきっかけは何だったのでしょうか。
実は、はじめから明確な構想があったわけではありません。ただ、以前からエンジニアとしてAIツールを活用しようとする際に、予算や申請フローの面でいくつかの障壁を感じていました。その課題を代表の佐藤に共有したところ、AI推進室を立ち上げようという流れになったのです。
プロダクトデベロップメント本部
研究開発部 部長 兼 AI推進室 室長
藤田 泰生SIerのSEとしてキャリアをスタートし、プロジェクトリーダーや新規事業の立ち上げなどを経験。その後スマートフォンアプリの開発を行うベンチャー企業へ転職し、プロダクトオーナーとしてプロジェクトに関わる。カオナビには2021年6月入社。サーバーサイドエンジニア兼エンジニアリングマネージャーを務めた後、プロダクトデベロップメント本部 研究開発部 部長に就任。2025年6月よりAI推進室 室長を兼任。
立ち上げ当初、社内でのAI活用にはどのような課題があったのでしょうか。
1つは予算やライセンスの管理が部門ごとに分散していたことです。たとえば、AIツールを少数ライセンスで試験導入する動きが複数部署で並行しており、同様の取り組みが並行して走っているケースもありました。その結果、全社として活用実態を把握しきれず、知見も分散してしまっていました。
もう1つは検証スピードです。本格導入前の検証段階であっても通常の申請フローを経る必要があり、スピーディーに試せる環境とは言えませんでした。そこで、AI推進室メンバーであれば一定の範囲で先行検証を可能にするルールを設けて、スピード感を高めました。
現在のAI推進室のミッションについてお聞かせください。
大きく3つあります。1つ目は弊社のAI戦略を社外に発信していくこと。直近では弊社主催のイベント「FACE to FES’26
」においてAIに関するロードマップを提示し、お客様向けのセッションも実施しました。そうしてAIに対する当社の考えや方向性を広報していく、というのがまず大きな役割の1つです。2つ目は社内におけるAI活用の促進です。AIツールの検証や導入を行うだけでなく、営業やカスタマーサクセスといったフロント部門でも生成AIを業務の中で自然に使える環境をつくる、というのが2つ目のミッションです。
3つ目は、新ビジョンとして掲げている「Talent intelligence™」の実現に向けたプロダクト開発の支援です。実務レベルでの開発はプロダクト本部が主導しますが、AI推進室はそのサポートや全社的な調整を担っています。
AIのためのKPIは追わない。現場の成果を最大化するための“黒子”としてのAI推進室
AI推進室のメンバー構成について教えてください。
現在、AI推進室に所属しているメンバーは16名です。全員が兼務で参画しており、エンジニアやPdMだけでなく、カスタマーサクセスやブランドデザイン部門のメンバー、プロダクトデベロップメント本部長まで、多様な立場のメンバーが関わってくれています。そのおかげで、現場の課題やアイデアが自然と集まりやすい体制になっているんです。
AI推進室の専任メンバーを置くのではなく、全員が兼務で関わっているのはなぜですか?
現在進めている業務が、AI推進室の設置による人員引き抜きなどで滞ってしまっては本末転倒だからです。AI推進室はあくまで現場の課題を解決する手段として機能すべきであり、その存在自体が業務の足かせになるような事態は避けるべきだと考えました。
それに専任組織にしてしまうと、KPIや目標を立てることになります。たとえば「AIで生産性を向上させる」「AIでコストを削減する」といった目標は、ある種の“ノイズ”になってしまうことも考えられます。
私たちがやりたいのは、今の業務をAIで強くすることであって、AIのための目標を作ることではありません。あくまでメンバー各々の本業で成果を出すことが前提で、それを加速させるために必要な予算や環境を提供し、各部門の取り組みを後押しする。そういった位置づけの組織だからこそ、全員兼務での参加、という形を選んだのです。
もちろん、AI活用単体で収益を上げるようなフェーズになれば専任組織化する可能性もあるでしょう。ただ現時点では、何かを犠牲にすることなく、活用ステージを引き上げられたことに大きな価値を感じています。
AI推進室が発足して1年弱が経ちますが、これまでの手応えや課題についてお聞かせください。
まず成功と言える点は、社内にAIの相談窓口機能を確立できたことです。また、さまざまな部署のメンバーが所属するAI推進室が社内で“横串”の組織として機能することで、AI関連の話に限らず部署の垣根を超えた相談がしやすくなりました。その点にも手応えを感じています。
一方でメンバーが兼務で参画している体制である以上、それぞれの取り組みに対して明確な期限を設けていないため、トップダウンで一気に変革を進める場合と比較するとスピード面では課題が残ります。既存の組織を大きく壊さない形でAI推進室を設置したことの裏返しとも言えますが、次のフェーズではより踏み込んだ体制や進め方を検討する段階に入っていると認識しています。
今、弊社はAIに投資すべきステージに立っています。その中で「次に何をやるべきか」という議論にAI推進室が関与できている点は、ポジティブな変化だと捉えています。
補助機能で終わらせない。カオナビが挑む、一歩先のAI活用
プロダクト開発において、カオナビはどの程度のAI活用水準を目指しているのでしょうか?単なる機能追加やPoC(概念実証)だけで終わらせないための視点についてお聞かせください。
まず前提として、AIの活用には二つの軸があると捉えています。1つはプロダクト開発の生産性向上にAIを活用すること、もう1つはプロダクトそのものにAIを組み込むことです。
前者については、すでに多くの現場で当たり前になりつつあります。エンジニアとしては、AIツールを活用できることはもはや前提条件に近いものになっています。
後者のプロダクトへの組み込みについては、現在の「カオナビ」でも一定の実装が進んでいます。生成AIのAPIを活用し、定性的な情報の要約や分析、翻訳といった機能はすでに提供しています。最近だと、複数のデータをもとに評価記述を支援する機能なども開発が進んでいます。
ただし、私たちが「Talent intelligence™」というビジョンのもとで目指しているHRソリューションのステージに到達するには、さらにもう一段階上の挑戦が必要だと考えています。
その「もう一段階上」の具体的なイメージをお聞かせください。
単なる補助機能としてではなく、近年注目されているAgentic AIやAIエージェントのように、さまざまな業務を代替・遂行できる存在としてAIがプロダクトに組み込まれている状態をつくることです。
これまでの「カオナビ」は、複数のプロダクトにユーザーがそれぞれログインして操作する“ツール”でした。しかしAIにできることは飛躍的に増え続けています。今目指しているのは、ユーザーがAIエージェントに対して指示を出すだけで、「カオナビ」内の膨大なデータを横断的に処理し、自律的にアクションを提示・実行する、という状態です。
そうしたAIがサービスの中に入っているプロダクトというのが、今後は当たり前になっていきます。これから入社されるエンジニアの方にも、AI前提のプロダクトをつくって顧客価値を提供する、という視点は持っていてもらいたいですね。
今後のカオナビにおける、AI活用の方向性について教えてください。
これまではプロダクトの中に生成AIを組み込むことに注力してきました。しかし今後はさらに一歩踏み込んで、MCP(Model Context Protocol:外部AIとシームレスにつながるエコシステム)のような標準的な仕様に即したインターフェースを意識したプロダクトづくりを行い、汎用AIとうまく共存することがAI推進室としての1つの目標ですね。今すぐにできるものではありませんが、AIがプロダクト内のデータを活用して業務を代替できるような体験を提供する、といったところにチャレンジしたいと考えています。
それから、「カオナビ」の中に意味のあるデータを蓄積させていく必要性も感じています。
「意味のあるデータ」というのは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。
たとえば、各企業の人材情報や評価履歴といった、汎用AIが学習していない秘匿性の高いデータです。もともとタレントマネジメントを支援する人材データベースとして進化してきましたから、そういった企業内部のデータを持っているのが強みなんです。
その強みを活かしつつ、他システムとの連携を強化したり、会議の内容などを自動的に蓄積したり、といった世界観を構想しています。それにより、意味のあるデータがさらに溜まっていきます。こうした雑多なデータを集約し、構造化して整理する場所として「カオナビ」を定義し直していきたいと考えています。
つまり、「カオナビ」はAIエージェントにとってのデータベースの貯蔵庫になる、ということでしょうか。
まさにそうです。AIの精度は与える情報の量と質で決まります。使えば使うほどデータが蓄積され、それによってAIがより賢くなり、業務の精度が上がっていく。この循環を構築することで、企業の成長を後押しできたらと考えています。
AIがコードを書く時代、エンジニアに求められるのはプロダクト価値への責任感
「カオナビ」をはじめとしたSaaSプロダクトがAI前提の世界観へとシフトしていく中、エンジニアに求められる役割も変化していくのでしょうか。
プロダクト開発の前提が変わっていくのと同時に、エンジニアの役割も変化していくでしょうね。また、これまでは5~10人くらいのスクラムチームで開発を行っていくのが当たり前でしたが、生成AIがさらに一般的になれば、さらに少人数でプロダクトを構築できる世界になっていくでしょう。開発のサイクルは今後、大きく加速していくはずです。
AI前提でプロダクト開発を行うのが一般的になると、エンジニアがカバーする領域は拡大します。プログラミング言語は時流に合わせて進化・変化してきましたが、現在は「コードそのものを知らなくてもつくれる」というパラダイムシフトが起きつつあります。極端な言い方をすると、セキュリティの問題は別として、コードがブラックボックス化してもユーザー価値とアウトプットだけ正しく定義できていれば、プロダクトを動かすことができてしまいます。
この変化の中で価値を発揮し続けられるのは、顧客体験の品質に責任を持ち、AIが提示したアウトプットを広範な知識でジャッジできるエンジニアです。これからはAIがコードを書く時代になっていきます。だからこそ私たちAI推進室は、単なる開発者ではなく、AIを使いこなし「何をつくるか」を定義できるエンジニアを求めているんです。
エンジニアの未来は大きく変わっていきそうですね。カオナビも今、大きな変化と成長の途上にあります。エンジニアがこのフェーズで参画する醍醐味を教えてください。
もともと弊社には、現場からのボトムアップで改善を積み上げる文化が根付いています。私自身も入社してからエンジニアリングマネージャー(EM)としてさまざまな業務改善に取り組んできましたし、そういっチャレンジがしやすい会社だと感じていました。それが昨年の非上場化を経て「積極的な変化を起こすこと」がさらに強く求められるようになり、これまで以上に新たなチャレンジがしやすい環境になりました。
カオナビは今、数年後の再上場を見据えた変化と挑戦の真っただ中にいます。組織やプロダクトの進化を当事者として推進できるタイミングにある点は、今ジョインするエンジニアにとって大きな魅力となるのではないでしょうか。ぜひ、カオナビの未来を大きく動かす仲間をお待ちしています。