「何をつくるか」の決め方が変わった。AI時代に、経営の意思決定を動かすプロダクトを作る

Interviewee

井上 英樹

2026.5.28

「Talent intelligence™(タレントインテリジェンス™)」という新たなビジョンのもとでカオナビが目指すのは、単なるデータの可視化やAI機能の実装ではありません。

「データを集める」「AI機能を実装する」といった従来の延長線上にある枠を越え、経営の意思決定そのものを変えるプロダクト価値の創出。カオナビは今、その難題に正面から向き合っています。

このミッションにおいて重要な役割を担うのが、2025年10月に新設されたプロダクトプランニング本部です。プロダクト戦略を立案・推進し、市場に受け入れられる価値へと昇華させる——。そこには、単なる機能改善にとどまらない、事業開発としてのPdM(プロダクトマネージャー)の醍醐味が凝縮されています。

今回は、新組織の舵取りを担うCPO プロダクトプランニング本部長の井上さんにお話を伺いました。「正解のない問い」に挑み続けるカオナビの挑戦と、その最前線に立つPdMの役割に迫ります。

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「どう経営を変えるか」を問う、プロダクトプランニング本部の使命

井上さんは昨年10月からプロダクトプランニング本部長に就任され、今年4月からはCPOに就任されました。まずはその経緯や背景について教えてください。

井上

この1年で、カオナビは「タレントインテリジェンス™」という新たなビジョンの実現に向けて、大きく舵を切りました。組織拡大が進む中で、新ビジョンをより実現性のあるものにするため、2025年10月にプロダクトプランニング本部を新設。開発組織から、プロダクト戦略の立案から販売戦略までの機能を切り出し、役割を分けました。私が本部長に就任したのも、設立と同時です。

組織の形を変えることで、「これから変わっていくんだ」という意思を社内外に明示する狙いもありました。戦略を策定する部門と開発を担う部門を明確に分け、現場の意識変化を促す構造をつくったのです。私自身がCPOに就任した理由も、そこにつながっています。

CPO
プロダクトプランニング本部長
井上 英樹
ECサイト構築・支援企業にて、主に大手企業向けECサイトの構築を担当。その後、製品開発部門にて執行役員としてプロダクト開発と事業推進を統括する。2025年に当社に入社し、プロダクトマネージャーとしてプロダクト戦略を推進。同年よりプロダクトプランニング本部長、2026年4月にCPOに就任。

なぜこのタイミングで、戦略策定の機能を開発組織から独立させたのでしょうか?

井上

新ビジョンの実現に向けて舵を切ったことで、プロダクトの存在意義が変化しており、以前よりもプロダクト戦略の立案・推進に力を注ぐべきと判断したからです。

これまでの「カオナビ」は、人事業務の効率化やDXを実現するツールとして価値を提供してきました。一方で、今回掲げた「タレントインテリジェンス™」が目指すのは、人事データをもとに経営の意思決定を支える“企業インフラ”になることです。プロダクト自体が変わったわけではありませんが、お客様に届けたい価値の根本は大きく変わりました。

開発組織の中だと、どうしても「どんな機能を、どう作るか」という議論が主軸になりがちです。しかし、これからは「お客様にどのような体験を届けるべきか」「お客様の意思決定のプロセスをどう変えるか」という問いを起点に考えなければなりません。プロダクトプランニング本部は、その問いについてより深く考え、市場にプロダクトを届ける役目を担っています。

カオナビのプロダクト戦略は、これまでにも何度かの変化を経ている印象です。PdMに求められる役割も変化してきているのでしょうか?

井上

はい、変わってきていますね。「カオナビ」の歴史とともに振り返ると、プロダクト戦略とPdMの役割は大きく3つのフェーズで変化しています。

第一フェーズ(シェア拡大): まだタレントマネジメントという言葉すら浸透していない時代の中、「顔が見える人材管理ツール」としてシェアを拡大。UI/UXや機能の完成度が勝負であり、PdMは機能を磨き込む、エンジニアに近い領域の仕事が主でした。

第二フェーズ(マルチプロダクト化): 労務や採用管理など領域を広げる段階。PdMにはプロダクト単位での事業責任が求められるようになりました。

第三フェーズ(タレントインテリジェンス™): データの活用によりタレントインテリジェンスという新たな市場でポジショニングを築く段階。個別の機能やプロダクトの枠を超え、データをどう活用していくか、事業設計の力が求められています。

要望や競合への追随を脱却し、提供すべき価値から逆算して描くストーリー設計

新ビジョンの実現に向けて、プロダクトはどのように進化していくのでしょうか?

井上

これまでのように人事業務を効率化しデータを蓄積するだけでなく、そのデータを活用して評価や配置、マネジメントの質そのものを高めていく段階に入ります。

たとえば、評価分布や人材の状態を適切に可視化することで、経営層が報酬や配置を判断する際に、より確かな根拠を持てるようにする。そうした意思決定の精度を上げるところまで踏み込みます。

私たちの最終的なゴールは、世間一般における正解を提示することではありません。各企業が持つ固有の課題に対し、その企業専用の答えを出し続けられること。それがこれから目指していくプロダクトの思想です。

プロダクト開発の現場において、従来のやり方を刷新する必要性を感じた場面はありましたか?

井上

これまでは要件を定義し、それに基づいて開発・リリースするという直線的なプロセスが中心でした。それでも機能開発は適切に進むのですが、「各チームの開発が事業や顧客にどんな価値をもたらすのか」という視点が不足しており、考え方を変える必要性があると感じていました。

「カオナビ」をご利用いただくお客様のニーズは、突き詰めれば「業績を向上させたい」にたどり着きます。そこに対して、一つひとつの機能がどう貢献しているのかを理解していなければ、「タレントインテリジェンス™」は実現できません。

だからこそ今は、機能単体ではなく、お客様の成果にどうつながるかというストーリーで設計することを重視しています。プロダクトプランニング本部は、まさにその戦略を深く考え、発信する役割を担っているんです。

その変化は、実際の企画や開発プロセスにどう影響しましたか?

井上

開発プロセスそのものは変わっていませんが、企画の起点が変わりました。

以前は「なぜつくるのか」に対して「要望があったから」「競合が持っているから」で完結していましたが、現在は「この機能は顧客のどの課題を解くのか」「どの指標に効くのか」といった問いが前提になっています。そうすると、つくるものも自ずと変わってきました。

結果として、エンジニアからも「この部分をケアしたほうがいいのでは」「ITリテラシーが高くないユーザーでも迷わず使えるか」といった案が自然と出てくるようになりました。機能単位ではなく、課題解決を軸に議論できており、良い変化だと感じています。

また、プロダクトや事業のビジョンに紐づかない機能は、たとえ要望があっても優先度を下げなければならないこともあります。ビジョンに基づく判断基準が浸透したことで、優先順位の判断がしやすくなっているのも、開発現場の変化だと言えますね。

組織全体で考え方をシフトさせていくにあたって、意識されていることはありますか?

井上

最上段のビジョンと戦略を明確にし、共有することです。ちょうどこの4月にも全社へプロダクト戦略を公開したところです。メンバー全員の目線合わせをするのは大変ですが、この土台づくりは欠かせません。

お客様からの反応はいかがですか?

井上

プロダクトプランニング本部を立ち上げてからの約半年で、お客様の関心領域に明らかな変化を感じています。

以前は機能の細部に関する話題が中心でしたが、私たちが新ビジョンを打ち出したことで、「データがどのように蓄積されて、それが自社を良くするためにどう活用されるのか」といった質問をいただく機会が増えたんです。こうした関心の幅の広がりは、結果的にプロダクトの進化を後押しすると考えています。

正解なき開発だからこそ——構造を動かすプロダクトマネジメントの醍醐味

「タレントインテリジェンス™」へと舵を切った「カオナビ」プロダクトに関して、今後の展望についてお聞かせください。

井上

将来的には、企業が中長期的な戦略を立てる際に、「カオナビ」というプロダクトを使って意思決定が行われる状態を実現していきたいですね。そのためにはまず、人材に関わるマスターデータを扱う会社としての地位を確立し、その上で意思決定を支援する仕組みを構築していく必要があります。

具体的な動きとして、今年度はAIエージェントの立ち上げと価値検証を行う計画です。さらに来年度は経営層や人事部門に限らず、顧客企業の従業員一人ひとりが日常的にAIエージェントを活用できるようにして、現場と経営の双方で意思決定に寄与する状態を目指していく予定です。

今後カオナビに参画するPdMやエンジニアには、何が求められるのでしょうか?

井上

スキル面では大きく3点あります。

まず、顧客の課題やユースケースを深く理解し、それをもとに設計する力。加えて、企画を実現するためのデータ構造への理解も欠かせません。さらに、企業のPL(損益計算書)やKPIを理解し、事業全体を把握する視点も求められます。

マインド面では、単に機能を磨くというよりも、事業を動かすことにやりがいを感じられる人が望ましいですね。

どういった人がカオナビにマッチすると思われますか?

井上

仮説を立て、素早くマーケットに出し、お客様からのフィードバックを受けて軌道修正する。この「正解がない問い」に挑み続けるプロセスは、難しいですがやりがいもあります。それを楽しめる人であれば、きっと弊社にマッチすると思います。

ただ一点、ミスマッチを防ぐために強調しておきたいのは、私たちの開発は決して“直線的な一本道”ではないということです。

タレントマネジメントシステムは、会計や労務管理システムのように法律やルールによって正解がカッチリと決まっている領域とは異なり、そもそも「これ」と言い切れる正解がありません。お客様のフェーズや課題によって、取り組むべき優先順位が大きく異なるのです。そのため、SIerのような直線的な要件定義〜リリースのプロセスをイメージされていると、ギャップを感じるかもしれません。

しかし、だからこそ単なる機能開発にとどまらず、「どのようにして使われるのか」「どのような課題を解決するのか」「経営判断にどう寄与するのか」といった、より上流の構造そのものを動かしていくこともできる。そこに面白さがあると感じています。

カオナビのプロダクト開発における、今のフェーズならではの面白さを感じる部分はありますか?

井上

今後はAIをどのようにプロダクトに組み込み、顧客にどのような価値を提供するのか、さらにはそれを通じて事業をどう成長させるのか、といった観点でプロダクト開発を進めていくフェーズになります。AIと事業とプロダクト、この三軸を横断しながら開発に関われる環境がある。ここは今のフェーズだからこその面白さであり、大きな魅力になると考えています。

近年はAI機能を前面に打ち出したプロダクトも増えていますが、それを実際にお客様が対価を支払う、いわゆる“売れるプロダクト”の形にまで昇華させるのは、非常に難しいものです。私たちは今、AIプロダクトをPoC止まりにせず、”本気で売れるもの”として成立させることに挑戦しています。ここは挑戦しがいがありますし、今後さらに面白くなっていく部分です。

決まった要件をこなすのではなく、自ら可能性を模索し、試行錯誤を繰り返しながら次の展開を考えられる方にとって、これ以上なく刺激的な環境です。

変革期のうねりの中、新しい市場創出へ挑む

井上さんご自身、入社されてからのこの1年を振り返っていかがでしたか?

井上

入社前に抱いていたHRテックやタレントマネジメントに対するイメージ、そしてこの領域で実現したいと考えていたビジョンについては、入社からの1年を通じてブレていません。

私自身、前職ではEC業界に長く身を置いており、その中でEC市場全体が大きく進化していく瞬間を目の当たりにしました。今、弊社を含むHRテックやタレントマネジメント市場でも、それに近い転換期が訪れようとしています。データとAIによって意思決定のあり方そのものが変わる。その入り口に立っているという感覚がありますね。

今後は、タレントインテリジェンスという新たな市場を創出していきたいと考えています。ただ、これはタレントマネジメントの延長線上にある進化ではありません。まったく新しい市場そのものをつくりたい。それが私個人の思いであるとともに、会社としての意思でもあります。

カオナビは今まさに大きな変革期にあり、挑戦しがいのあるフェーズに立っているということですね。では最後に、カオナビに関心を持つPdMやエンジニアの方へのメッセージをお願いします。

井上

市場の定義を塗り替えていくことに挑戦してみたいと考える方にとっては、カオナビは存分に力を発揮できる舞台になるはずです。自ら「タレントインテリジェンスとは何か」という定義を世に示し、市場を牽引していく。この大きな変革にキャリアを懸けて挑戦したいという方と、ぜひ一緒に歩んでいけたらと思います。

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